滝澤修の研究紹介(コンテンツセキュリティ関連)

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滝澤修の所属の変遷

私が1987年に研究者生活を始めてから一貫して続けてきた研究のテーマは、
『コンテンツを操作して何らかの副次的効果をもたらすための研究』
と位置づけることができます。

言葉(自然言語)は本質的に、冗長性・文脈依存性・解釈多様性などの「曖昧性」を持っています。自然言語における曖昧性の存在は、言語哲学あるいは認知科学上の考察の対象としては面白いのですが、機械翻訳などの実用的な自然言語処理にとっては、性能向上を阻害する困った性質といえます。
なぜ人類はこれまでの進化において、プログラミング言語のような、もっと曖昧性の少ない正確な自然言語を獲得してこなかったのでしょうか。それは、曖昧性がコミュニケーションにとって実は有益(必要)だからではないかと思われます。曖昧性が役立つ例として、大量の意味を少ない言葉に含めたり、複数の意味を同時に伝えたりできることや、特定の相手にだけ真意を伝えられること、状況の変化に応じて新たな意味を容易に定義できること、などが考えられます。無限の状況を有限の言葉によって表現できるのも、自然言語が曖昧性を持っているがゆえに可能なのではないでしょうか。
そこで私は、自然言語が持つ曖昧性に積極的に着目し、工学的に扱うことを模索してきました。

●「言外の意味」の工学的解析

自然言語は意図的・非意図的にかかわらず、表面に現れる、即ち辞書に載っているような固定された意味以外の意味を本質的に含んでいると考えられます。真の意味での高度な自然言語処理を実現するためには、このような「言外の意味」を計算機で扱えることが必須といえます。
その取っ掛かりの研究として私は、駄洒落アイロニー(皮肉)、トートロジー(同語反復表現)など、意図的に言外の意味を含ませるような修辞表現を対象とし、工学的解析の研究を進めてきました。駄洒落処理の研究については、こちらのページもご参照下さい。

●「言外の意味」と暗号の研究

言外の意味を活用すると、限定された相手にだけ情報を伝える、一種の暗号伝送が可能になります。古典的な暗号において、遠まわしの表現あるいは例え話による「隠文式暗号」と呼ばれるものがあります。聖書、各種の予言、日本書紀などは、様々な意味が隠されている隠文式暗号と言われています。これは、伝わる相手を予め特定しておくわけではなく、「わかる人にだけわかる」ようなさりげない限定がなされているものです。あるいは、予め特定されたコミュニティ内において約束された隠語(符牒)を使った暗号もあり(「隠語式暗号」と言います)、デパートや駅のアナウンスにおける従業員向けの伝達や、若井世代の同年代コミュニティにおける特殊な言い回しなどの形で日常的に見られます。

近代暗号(主として軍事目的に開発された、数理的手段による暗号)やサイバー暗号(ネットワーク社会において商取引やコンテンツ流通に用いる、デジタル的手段による暗号)においては、隠文式暗号は対象とされていません。これは、隠文式暗号は意図した内容を正確に伝えることが難しく、大量の情報を正確に伝えるという近代暗号やサイバー暗号の要求に合わないためです。しかし一方で、マルチメディアコンテンツの大量流通時代を迎え、コンテンツの不正流通を牽制することなどを目的として、画像や音楽などに著作権情報(電子透かし)や配布先情報(フィンガープリンティング)を埋め込む「ステガノグラフィ(深層暗号)」と呼ばれる技術が注目を集めていますが、情報が埋め込まれていること自体を隠す隠文式暗号は、一種の「意味によるステガノグラフィ」であり、工学的に実現できればサイバー社会においてもさまざまな応用が期待できます。

私は、暗号・情報セキュリティの研究を行っている非常時通信研究室に2000年7月から所属し、隠文式暗号を数理的に扱う手法を確立して、サイバー暗号として生まれ変わらせることができないか、と考えてきました。そこで、自然言語テキストのキャラクタコード列にデジタル的手段により情報を埋め込み、かつ埋め込まれていることが露見しないような工夫を講じた「テキストステガノグラフィ」の研究を進めてきました。 ステガノグラフィはこれまで画像や音楽などを対象としたものがほとんどで、自然言語テキストを対象とした研究はまだあまり取り組まれていません。

主な発表文献

●情報重畳技術の防災応用

私は2006年4月から、国民の安全・安心(ナショナルセキュリティ)の一つである「防災」に関する研究グループの責任者となりました。その組織の中でも、災害時の音響や掲示に別の情報を重畳する研究を、若手研究者と共同で進めています。例えば消防車のサイレン音の中に行き先情報を聞こえない信号で重畳して、通りかかった消防団員がそのサイレン音を高機能携帯電話で集音・復号することで、その消防車の行き先を知り、いち早い初動を可能にするといった応用を目指しています。災害時にはさまざまな制約によって通信手段が限られるため、情報重畳などの手段で多くの情報伝送を行える技術が重要になります。

音声や言葉の研究からスタートした私はこれからも、『コンテンツを操作して何らかの副次的効果をもたらすための研究』を続けていきたいと思っています。


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