自己相関関数を用いた音声処理システムSPAC

〜カラフトアイヌの蝋管レコードを復元した雑音除去装置〜

 通信総合研究所は、送話時の環境雑音や伝送路の雑音などによって劣化した音声のSN比を改善(雑音を除去)する信号処理方式“SPAC”(Speech Processing System by Use of Autocorrelation Function)を、昭和50年に開発しました。これは短時間自己相関関数の性質を利用した信号処理方式であり、シミュレーションによる方式の最適化の後にハードウェアを試作しました。写真の装置は2号機(沖電気製)です。理論解析及び聴取試験の両面からSN比改善効果を定量的に評価するとともに、低ビットレートのPCMやADMの符号化雑音にも有効なことが実験的に確かめられています。なお、SPACは周波数スペクトルの圧縮、拡大も行えるため、ヘリウム音声の了解性改善やテープレコーダの再生速度変更と組み合わせた会話速度の変換などにも利用可能です。

 20世紀の初め、ポーランド初代大統領の兄、ブロニスワフ・ピウツスキーが、サハリン(旧:樺太)に流刑にされていた頃、蝋管蓄音機を使って、今ではもう聞かれないカラフトアイヌの肉声を録音していました。ポーランドの大学に保存されていたその蝋管レコードを、北海道大学応用電気研究所(現:電子科学研究所)の伊福部達教授らが再生に成功しました。その再生に際して雑音除去に多大の貢献をしたのが、この装置(SPAC2号機)です。再生に至る取り組みは、1984年にNHK特集のドキュメンタリー番組「ユーカラ 沈黙の80年 〜樺太アイヌ蝋管秘話〜」として放送されました。同番組には、このSPAC装置と、開発した鈴木誠史氏(当所元所長)も出演しています。同番組は放送当時大きな反響を呼び、ビデオがNHK特集名作100選としてNHKソフトウェアから販売されています(商品番号00364VA,税抜価格7,800円)。

【関連情報】
電波研究所ニュース(1984.5)
「ロー管レコードから再生した音声のSN比改善」(鈴木誠史)

全体像

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